« にいさん いせひでこ著 | トップページ | 朝陽の中で微笑んで »

分かれ道 VOL.27

◇「食べ物が身体を作る。何を食べるかで、身体と心が変わる。」
  ↑(これ本当です。大切な一行なんだけれども・・・・・)(笑)

料理講師の定職に就いた僕は・・・・・。
飯坂とこの先どうしてゆくのがよいのかと少し考え始めました。

飯坂は既に当時白山にあった名店「La bell de jour」(ラ・ベル・ド・ジュール)でソムリエールとしてバリバリ仕事をしていました。
そして、巴里にいる時にかなり身近に接していましたから、どう考えても
家庭におさまるタイプではないし・・・・・。
店を持つには、先立つものが二人とも全くないどころか・・・・。
マイナスだったのですから。(笑)

とはいうものの、二人でいると料理の話は尽きず・・・。
性格は全く正反対。
価値観もかなり違う。
レストランに関してはかなり近いものは持っていそうだけれども・・・・・。
僕と違う部分でかなりの頑固者でした。(爆)

果たして、上手くやっていけるのだろうか?

考えているうちにお互いに無いもの、僕は料理の、彼女はサービスのプロなんだと、
誰かが僕の頭の中でささやきました。
問題が起きたとしても、理性的に解り合うことは可能だろうと思い始めました。(笑)

後にそれが、全く甘い考えてあったと気づいくのですが・・・(爆)

お互いの家族を紹介しあい、籍も入れ自然に飯坂のおなかも大きくなってゆきました。
不思議なものです。
今まで人ごとだったのですが、こうして間近に経験すると人間とはやっぱり動物で、そしてあの映画「エイリアン」を考えた人も、やはり人間だから考えたのだなと(笑)
飯坂が言いました。

「何か得体の知れないものが、自分の意志と全く関係の無いところで自分のはらわたを触っている。今まで、決してさわられる事が無かった部分を・・・・。 このいいようのない恐怖のような気持ち悪さは、何だろう。」

僕としては、「ふーん」と聞くより術はなく・・・。
そんなものなのかとうなずいてました。(爆)

僕は、会社員の様に、定時の地下鉄で通う日々になりました。
飯坂の毎日は知りませんが、いつの間にか近所の女性歯科医と友達になって一緒に夕御飯を食べる仲になっていました。

会社員のようにとは言っても、料理の世界です。
夜のクラスは晩ご飯の時間帯なので、片づけ終わって帰れば0時に近い事もしばしばです。

それでも夜のクラスが無ければ、夕方に帰る日もありましたから・・・・。
今までの世界では考えられない自由を得た、それはまるで監獄から釈放された様な気持ちでした。

ふと思いました。
僕の友人の料理人で子供を授かった者が何人かいるのですが・・・・。
朝早くに家をでて、帰宅は深夜。
日曜開店の店であれば、幼稚園や小学校の運動会、学芸会もままなりません。

ホテルや上場会社のレストランならいざ知らず、街場のレストランは労働時間も休日も人並みでは無いのです。
昔よく言われました。

料理人と美容師は、労働基準法適用外(笑)
おおむね職人仕事というのは、自ら覚えたくて入って来ることが殆どなので、時間だぞと言われても、終わらず働くことが多いのです。

そして、自ら働く人間を、誰もやめろとは言えないものでした。

だんだん、僕に料理教室の話が来た理由が・・・・。
わかり始めたのです。

友人、先輩達は、一様に「料理教室!?」と言ったけれども・・・・。
巴里から帰国したとき、料理人として働くことを半ば止めるつもりだったのに・・・。

きっとバリバリの料理人になる気が失せていたから、料理教室という職場に何の疑問も抱かずにお世話になる気持ちが起こったのでしょう。
引き寄せている現実。
そして引き寄せたものが未来をまた引き寄せている。

僕はそれまで未来は自ら作るものだと思っていたのです。
原因は自分にあり、その結果未来が作られるのだと・・・・。
ところが、自分の全く手の届かないところで、すぐそこにある未来が作られている事を知り始めました。

生まれた子供は女の子でした。
とても難産でした。
三月の末に生まれる予定で入院したのですが、カレンダーは四月に変わってました。
その子は、甘えん坊だったのです。おなかの中にずっといたかった様でした。(笑)

病院の回りは桜が満開でした。
地下鉄の駅からバスに乗って病院まで行きました。

まるで病院へ行く花道の様に咲いているのです。
その時僕は、一般の料理人より自由に動ける時間が持てたので、それなりに長く飯坂に付き添うことが出来ました。

そして、今のりあん同様、第1週目にはクラスが無かったので、より時間を気にせず
病院にいることが出来ました。

こんな事を、計画的に作ることは無理です。
自分で作ったのでは断じて無いのでした。

心音計が二つあることを不思議に見てました。
あぁ、新しい生命体が本当にここにいるんだ。
とてもしっかりした心音に思いましたし、廻ってくるドクターもそういいました。

四月四日目になりました。
ふと気づくと、しっかりしていた心音が心なし小さくなったように思いました。
あれっ?

消えたのです。

これは何を意味するのだろう?
僕の頭は混乱しました。

「死」?

昨日まで、元気な赤ちゃんですねと言われていた、この心音を僕たちに送り続けていた
生命体が死ぬと言うことだろうか?

かなり慌てながら僕はナースコールを押しました。
ドクターも看護婦さんも一気に集まりました。そしてベットを移動し手術室へ向かったのです。緊急帝王切開が始まりました。

あまりにも知らないことが次から次へとやって来て、僕は地に足が付いていなかったように思います。

手術が始まってどの位たったのでしょう。
何処にも行けず手術室の扉の真ん前でたっていた僕のところへ、アルミニュウムの様な
ものに来るんだそれこそ小さな猿のような生物を(笑)看護婦さんが持ってきました。

本当に小さかったです。
「赤ちゃんもお母さんも元気ですよ」と言い残して、すぐに彼女は何処かへその小さな生物を持ってゆきました。

へなへなと座り込んでしまうような安堵とは、このことだったのでした。(笑)

僕は我に還り、近くの公衆電話を探しました。
そして、手術室にはいる前、飯坂に言われていた順番に電話をかけました。
一軒、また一軒報告の電話をする度、現実を感じ、なんだか嬉しいような、こそばゆいような・・・。

でも、その後ろにだんだんと見え隠れするものの正体が何なのか?
何で全部見えないんだろう?

それはあまりに大きすぎて・・・・。
僕が生まれてから出会ったことが無いほど、大きな知らないものだったのです。
そしてそれが、こんな形でやってくる、それもすぐにやってくるとは・・・。
喜びの電話の中にいる僕には知る由もありませんでした。
                                          Yoshinori.K

|

« にいさん いせひでこ著 | トップページ | 朝陽の中で微笑んで »

料理人の休日」カテゴリの記事